教区報
教区報「あけぼの」
「小名浜に遣わされて」2015年11月号
4月1日より越山健蔵司祭の指導の下、小名浜聖テモテ教会と聖テモテ支援センターの働きに従事して、半年が過ぎようとしています。これまでの多くのスタッフ・ボランティアによって培われた信頼関係を引き継ぎ、原発避難地域からいわき市の応急仮設住宅団地に住まわれている方々との交わりをいただいています。
富岡町からの泉玉露仮設・大熊町からの渡辺町昼野仮設の両集会所で、週に2回ずつ「ほっこりカフェ」(下写真)を開催しています。先日は、警察官がカフェに来訪し、大熊町をパトロールした際のビデオを上映してくれました。これは仮設在住の避難者の要望に応えて、未だ高線量で一時帰宅もままならない元の家がどんな風になっているか、画面からだけでも見てもらおうとの活動でした。
変わり果てた思い出の我が家を目の当たりにし、「帰りたい…!」と号泣される姿に、私も警察官も涙を禁じえませんでした。ところがレンズが振られたとき、驚きの光景が拡がりました。そこに映ったのは、通常の制服姿で何の放射線防護もしていない(花粉用マスクですら!)20歳代前半の警察官の姿でした。
我が家を一目見たいと依頼した方も、孫と同年代の若者が福島第一原発のそばで無防備で立ち歩いている姿に呆然としておられましたが、後悔の念が沸き起こったと後日伺いました。
私は脇へ警察官を連れて行き、風邪を引いた振りでもいいからパトロールの際は自分を守るべきだと言いましたが、言葉にしづらい事情があるのでしょう、黙って首を振るだけでした。このように、今も安全神話がはびこり、多くの人の身体と心を傷つけ続けている現実があります。
大震災から4年半を経た今、仮設団地は転出のピークを迎えています。いわき市内の造成地を買い求め、自宅を建てることが出来た方が、次々と仮設を後にしていきます。残されているのは、経済的・健康的・年齢的・家族的に余裕がなかったり事情が許さなかったりして、復興公営住宅が建設されるのを待っている方々です。工事は遅々として進まず、更に2年間はプレハブ暮らしを強いられると思います。気が滅入り、部屋に閉じこもってしまわないよう、近隣の気の合う仲間とコーヒーを飲んでほっこりしていただけるならば幸いです。私は時が経つにつれカフェのニーズは減っていくどころか、逆に増していくと考えています。復興公営住宅での孤立の問題も深刻です。
困難な状況に置かれた方々の背後に、いやその方々の姿に、十字架の主イエスが私には見えます。この困難と悲しみのただ中で既に働いておられる主イエスに従うことが、信仰者のありようだと考えています。福島県から遠くなるほど、生の声はますます届かなくなっているのではないでしょうか。国や原発でまだ儲けたい人たちは、もう終わったことにしたいのでしょうが、そうはいきません。私たち信仰者は、聖餐式に示されるように、繰り返し思い起こし連帯することが得意なはずです。皆様、ぜひ小名浜をお訪ねください。この地を共に巡りながら、私たちに先立って働かれる主といっしょに歩かせていただきたいと願っています。
執事 バルナバ 岸本 望