教区報

教区報「あけぼの」

「出エジプトの旅」2016年3月号

3月号 1面写真ひとり孤立せず生活できるのは幸せです。地域にある教会は決して単独ではなく、世界と固く結びついている故に力があります。被災地にいる私たちは、多くの皆様のお祈りに本当に支えられ励まされてきました。例えばロンドンの日本語英国教会で覚え祈ってくださり、2月6日、サザーク大聖堂にてマイケル・イプグレイブ主教説教で東日本大震災追悼礼拝を献げてくださいました。大韓聖公会首座主教パウロ・キム・グンサン主教や大田教区モーセ・ユ・ナクジュン主教が東日本大震災記念聖餐式に参列くださいました。日本聖公会すべての信徒・教役者の皆様も同様に祈ってくださっております。

 

 
祈りは連帯を促します。祈りは世界と教会をつなぎ一つとします。祈りは共同体一致を目指します。祈りは個々人 を支える大きな力なのです。

 

 
今、日本は憲法無視の安保法案可決、辺野古への新たな軍港建設、原発再稼働、深刻さが増大するばかりの福島第1原発放射能汚染等、生命・環境に憂慮すべき事態が進行中です。福島県の小児甲状腺癌および疑いのある子どもは160人を超え、帰還政策、補償金打ち切り等は、今そこにあるいのちの著しい軽視です。原発事故の恐ろしさを描いた黒澤明監督のオムニバス映画「夢」第6話「赤富士」が夢の中の話ではなくなってしまいました。

 

 
昨年のノーベル文学賞作家、ベラルーシのスベトラーナ・アレクシエービチさんは言います。福島原発事故の後、広島、長崎原爆とチェリノブイリ事故と併せて「人間の文明は『非核』の道を選択すべきではなかったのか」「原子力時代から抜け出さなければならない。私がチェリノブイリで目にしたような姿に世界がな

ってしまわないために、別の道を模索すべきだ。」さらに、「生命の共感や他者への思いやりを重視する女性的な価値観こそが、新しい世界を開くのに重要です」と。これらには、私たちの行動を方向付けさせます。

 

 
では、私たちがなすべき責任は何か。核兵器廃絶に向けた科学者たちのパグウォッシュ会議のきっかけとなったラッセル・アインシュタイン宣言(1955年)にある、「人間性の回復」に努めたいと願います。世界教会協議会2014年7月採択声明「核から解放された世界へ」は、「私たちに求められている生き方とは、いのちを守ることです。」と単純明快に発信しました。これに先立つ2012年12月開催の「原子力に関する宗教者国際会議」でのチャン・ユンジェ氏基調講演は「核から解放される出エジプトの旅」でした。「この砂漠(最初に核実験が行われた場所)で“死の遊び”が始まったのです。これを止め、“いのち”を選ばねばならない。核から解放された世界への出エジプトが、ここから始まらなければならない。……その旅路の先に、私たちは人間性を取り戻せるはずなのですから。長く厳しい旅路となるかもしれません。

 

 

しかしその旅において、あなたは孤独ではないのです。なぜなら、この出エジプトの道は、いつか、いのちと正義を重んじる多くの人々の列となるからです。」
私たちはこの出エジプトのイメージ、幻を実現させるため被災の地に立ち続け、旅に加わって参りましょう。

 

立ち続け、旅に加わって参りましょう。

 

司祭 フランシス 長谷川 清純